モーリシャスがフランス領からイギリス領に代わって間もない頃、1840年にイギリスで前払い制の郵便切手が発明され、やがて本国に続き、ブラジル、スイス、アメリカ、そして(世界でなんと5番目に!)モーリシャスで、郵便切手が発行されました。(因みに日本で切手が初めて発行されたのは1871年です。)

当時の駐モーリシャス・イギリス総督夫人が、フランス系住民との融和策の一環として仮面舞踏会を開催することにし、その招待状を送るために切手を発行させた、と言われています。
ビクトリア女王の横顔がデザインされたオレンジ・レッドの1ペニー切手500枚、ディープ・ブルーの2ペンス500枚、「モーリシャス・ポスト・オフィス切手」と呼ばれる合計1000枚の切手が1847年9月に発行されました。

この最初のバッチは、後年この切手の版を彫った彫金師ジョゼフ・オズモンド・ベルナールが、[Post Paid]と彫るところを[Post Office]と彫ったことから、間違えて彫られてた貴重な切手となったという説もありましたが、当時は「Post Office」と彫る慣習が一部にあり、また、横にレイアウトされた「Mauritius」の文字とのバランスを考慮して「Post Office」と彫った、という説が有力視されています。(なお、2回目以降のバッチは「Post Paid」となりました。)

さて、前置きが長くなりましたが、この「Post Office」切手、現存するのはオレンジ・レッドが12枚、ブルーが15枚の計27枚とされており、世界中の切手収集家の垂涎の的となっているのですが、実は日本とも縁があり、有名な郵趣家・金井宏之氏(故人)が一時この切手を6枚所有していたことがあったのだそうです。あ、また話がそれた…

今度こそ、本題!
12枚のオレンジ・レッドの中に、舞踏会の招待状を送る封筒に貼られた状態で残っている「モーリシャス・ボール・カバー」(※このボールは舞踏会の意)と呼ばれるものが3枚あり、1枚はエリザベス女王、もう1枚は英国図書館が所有しており、残りの個人所有だった1枚が先週の6月26日にドイツで競売にかけられたのです。

400万ユーロで始まったこのオークション、他の2枚は市場に出回ることはまずないだろう、ということで、値段があれよあれよという間に上がり、最終的には810万ユーロ、日本円にすると…


10億6千万円~!


で落札されたのでした。

2,3㎝四方の小さな紙片が、じゅ、じゅ、十億円ですよ

以前「世界ふしぎ発見」の撮影の際に取材させていただいたポートルイスのブルーペニー博物館の館長さん曰く「普通の人には小さな紙切れでしかないかもしれないが、その背景にある歴史や文化、ストーリーに大きなロマンが潜んでいるのだ。」そうです。


さて、この10億円の「モーリシャス・ボール・カバー」、今のところ落札者は明かされておらず、一般公開される可能性は少ないようですが、とりあえず「ポスト・オフィス切手」の実物を見たい!という方へ、現存する「ポスト・オフィス切手」27枚のうち、貴重な未使用の2枚(オレンジ・レッドとブルーの各1枚)は、先述のポートルイスのブルーペニー博物館に展示されています。

1996年にウォーターフロント地区が整備され、そこにオープンする博物館の目玉とするために、金井氏が販売したものをモーリシャスの企業10数社が共同出資して購入したのですが、当時の買収価格は2枚で約2億円!現在では2枚で6億円は下らない、と言われています。

常にライトを当てていると切手の色が劣化してしまう、ということで、ブルーペニー博物館では、1時間毎に1回10分のみ照明が点灯し、実物を見ることができるようになっています。

これがブルーペニー博物館

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ポストオフィス切手は2階に展示されています。

ポートルイスにいらした際には、目の保養に是非どうぞ!